« 寒冷紗・・・この漢字で良いのだろうか? | トップページ

2009年11月12日 (木)

森林医療の効用と森林観光地(六甲・有馬)の持続可能性

20081113日 有馬温泉旅館 陶泉 御所坊 サロンにて開催

社学連携ワークショップ成果報告書(大阪大学サステナ倶楽部)より

講演者 森本 兼嚢 (大阪大学大学院医学研究科 教授)

司会 本日は、エクスカーションという形式で、日本有数の温泉地である兵庫県有馬温泉 「陶泉 御所坊」のサロンで開催します。

 森林医学研究の第一人者である大阪大学医学研究科,教授、森本兼嚢先生を講師にお招きし、森林医学の歴史や社会的背景を概観するとともに、世界各国および日本での森林医療の取り組みについてお話いただきます。現代人が抱えるストレスについて、また、健康志向や自然共生範なライフスタイルへの転換について、森林の持つ精神的,物質的な効力を踏まえて考えてみたいと思います。

 さらに「陶泉御所坊」のご主人、金井啓修様にもご参加いただき、有馬における温泉地としての持続可能性について、温泉街全体として、また独白の取り組みについて、景観の保護や水源の管理の話を中心に、保守と革新の姿勢をお話いただきます。

まず、森本先生にお話を伺います。どうぞよろしくお願いいたします。

森本 こんにちは、いつもの教室と違ったサロン的な雰囲気の中て講義ができてうれしく思います。さて、今日はここ5~6年、私が一生懸命取り組んできている森林医学のプロジェクトについて話してみようと思います。

死に至る病をストレスが作る時代


 今は、医療崩壊の時代だと言われています。どうして我々の健康や心の状態がこんな風になったかというと、どうも我が国だけで見てもこの100年間の歴史はあまり人間の方を向いていなかったということが原因かもしれません。医学は人間学なので、人間に好ましいやり方で区学が進化してこなかったのかもしれない、という反省が色々な場面で起こってきました。私はそれを「ストレス危機」という切り口で考えました。

 

 ストレス危機といっても、「ストレス」とは何かとはっきり定義するのはなかなか大変です。私自身がストレスに興味を持ったのは、ライフスタイル医学というものを一生懸命やっていたのがきっかけです。ライフスタイル医学とは、我々の生きざまの医学。例えばちょうど日本の4050年前の死亡率の1位は、ご存じのように感染症である肺結核でした。しかし、今の死亡率の第1位は男性が肺がんで、女性は胃がんや乳がんであったり、ここ10年ぐらいで大きく変動しています。

 結核は、今ではそれほど死に直結する病気ではありません。医学の発展した現在では、肺結核は死亡原因の23位ぐらいです。結核菌は外から入ってきます。大体は空気感染です。ですから、そういう経路を遮断するか、感染症の場合には病原菌ウィルスを入らないようにするか、もし入っても抗生物質を使って殺します。生体の免疫力を上げて防御性を高めます。一方、現在死亡原因としてメジャーなのは肺がんで、がんの死亡率では第1位です。脳卒中も脳卒中の菌はありません。心筋梗塞も糖尿病も菌はありません。ほとんどすべて、ウィルスではない病気が原因で我々は病気になって死んでいます。つまり原因はライフスタイルなのです。一人ひとりの生き様や生活の仕方が原因で、健康がどんどん落ちて病気になります。これはてごわくて、治療の方法はありません。病原菌であれば抗生物質があるのでその病原菌を殺せばいいのですが。

 ライフスタイルが原因で起こる病気の一番典型的なモデルは肺がんで、男性の死亡原因では1位てす。ほとんどが結構早く死に、あまり治りません。たばこは悪いと思いますがなかなかやめられなくて、という方がほとんどでしょう。

日本人男性の今の喫煙率は47%てす。なぜやめられないのてしまうか。それは、たばこを吸うことは完全にその人の個性や生き様だからです。ですから、その生き様を外からの強制力で無理矢理変えるというのは、実は近代的なインディビジュアリティに対して、非常に倫理的に大きな問題を持っています。人間の個性の変容は、容易なことではありません。フィンランドで行われた実験で、経営トップの人を集めて、「病気を治したければ生活習慣を直しなさい」と偉いドクターが指導しましたが、逆に1.7倍ぐらいに死亡率が増えました。個性派の生き様を持った人に「あなたの生き様は不健康だ」とやったのでは、行動は変容しても大きな無理やストレスがあるのてす。昔は環境から来る病原菌と闘いましたが、今や闘う相手は知らない間に身に付いた自分の個性です。そこには、いろいろ

な種類の心理的な葛藤があります。そういうところからも、「ストレス」がキーワードだと思うようになりました。

 もちろん、ライフスタイルを変えることは、免疫力を考える上でとても重要なことです。30歳を過ぎると我々の体内で1日に毎日何千個のがん細胞ができます。特定の遺伝子が変異するとがん細胞になるのです。遺伝子が変化してがんになります。そういうがん化した細胞は、私たちが元々持っているナチュラルキラー細胞(NK細胞)の作用によって、自滅してしまいます。ところが、ライフスタイルのせいでNK活性が弱くなっている人は、何時間たってもがん細胞を殺せない。たばこを吸う。ストレスが多い。寝不足という要因が重なると、それによってどんどんNK活性が落ちてくるのです。

 ただし、ライフスタイルがよくても、生活の満足度が低い人は残念ながらNK活性が弱く

なってしまう。これはかなり微妙な問題なのですが、事実なのです。そこで、ストレスを少なくし、楽しく生活の満足度を高めて生きるということが、病気を回避する秘訣なのです。

森林の癒しがQOL向上を招く

 

 ストレスには、自然の癒しが必要になります。山に入ってしばらくすると、ホッとしませんか?我々が亡くなっても時間は無限に続いています。私たちはたったその1点で生きている。そういうことを自覚すると「何となくゆっくりやるか」という気持ちになります。リラックスした非日常的な時間を取ることで、せわしない一瞬の中でも何かが回復するのです。これはすごく重要です。しかし、なぜそういう自然共生的な生きざまが今大事なのでしょうか。

 そこで考えるべきことは、人間の野生性と管理性です。我々は管理組織化された管理社会を一生懸命生き、学校で勉強をして受験をしたりしています。まさに動物園で飼われている動物と同じで、ちゃんと管理されています。ものを作らなくても、お百姓きんが作ったものをお金で買えるという、ある近代的に組織化された檻のような中に我々は住んでいます。しかし、管理されて生きるだけでは、自然の中で生きる動物としては、バランスが悪くなってしまう。野生はもちろん厳しい。例えば、野生動物の寿命はとても短いですね。野生のライオンと動物園のライオンを比べると、野生のライオンの寿命は大体2分の1だそうです。野生動物はいつも獲物がないと飢え死にするのて、必死になって得物を追い掛けています。野生性、動物性、そのものです。充実かどうかは分かりませんが、激しいのです。獲物が捕れないと空腹で死んでしまうのて、死に物狂いで獲物を捕らえてがつがつ食べて生きています。故に襲われて重傷を負うと、2~3日するとあっという間にいろい

ろな感染症で亡くなります。一方、動物園のライオンは、朝起きると直腸の温度を測って、

ちょっと熱があるというと、抗生物質が適度に入った餌をもらいます。故に襲われることもないから、当然長生きします。基本的に、現代の我々の一般の社会は、どうも動物園の中のような場合が多いのです。それでいいのかと思いますが、実はあまりよくはありません。

 人生のQOLという視点で考えた場合、この完全な管理された状況が良くないということ

が、お分かりになるでしょう。たとえ長生きできても、寝たきりだと、あまり望ましい生き方とはいえないでしょう。QOLが高い状態の寿命のことを健康寿命といいますが、これをできるだけ長くするのが、私たちの目的といえるでしょう。その健康寿命を伸ばす方法がストレスと向き合い、リラクゼーションの機会を持つことなのです。自然と一緒になるような時間を持つこと。こうすることで、管理されるだけでなく、自分の中の野生性を活かしながら、より質の高い一生を送ることが出来ると考えたわけです。

 そういうわけで、森林セラピーについて考え始めました。5~6年前に林野庁と厚労省が協力し、「森林セラピー研究会」が作られました。10億近い金額を使い、さまざまなプロジェクトを行いました。それを前身とし、「森林セラピーソサエティ」というNPO法人を作り、新たな活動が始まりました。

 世界中を見ると、ドイツは120年前から国の健康保険の2割ぐらいを森林保護のために使っています。予防医療の一環として、森林セラピーが取り入れているわけです。日本は予防予算は全体の0.5%で、ほとんど病気の診断治療にしか使っていません。ドイツはその逆です。国内には、森林の保養地が何百カ所とあります。こういう保養地に来て、普段の管理社会におけるストレスを発散したりすることが国家レベルで考えられている。私どもの活動が実を結び、今現在、日本では全国に35カ所の森林セラピー基地が認定されています。先々週は四万十川の上流地域が、新しく認定されました。

 病気の原因はストレスと申し上げました。ストレスは脳で起こるものです。緑の森林を見たときと、都会の雑踏を見たとき、脳は全く違う反応を見せます。例えば、こうゆう都会の雑踏を見ると、すごく不快な感じがします。また、写真でも緑の森林を見ると快適だという信号を脳は発します。写真を見るだけでも、はっきりわかる結果が出ますので、実際に森林に行かれて、視覚だけでなく聴覚や嗅覚等を働かし、全身で森林を感じたとすれば、どれだけ脳が快適と感じるかは分かるでしょう。

 具体的に、以前行った森林浴のサンプリングの例を申しあげましょう。このヒノキの林からサンプリングした非常に低濃度のヒノキの林からサンプリングした非常に低濃度のヒノキの成分を、試験管内の培養液中に溶かし込み、人のリンパ球を入れる。そうすると、ヒノキであれ桜であれ、共通にあるのはアルファ・ピネンという物質です。アルファ・ピネンによりNK活性が上昇します。

 森林が私たちに与えるリラックス効果。これを生活に取り入れること。これが生活の質を高め、健康寿命を延ばすこと。管理されている部分と、野生の部分のバランスをうまくとって生活する事が、大切だと思います。

司会 ありがとうございました。次に本日の会場である・・・(以下省略)


« 寒冷紗・・・この漢字で良いのだろうか? | トップページ

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/107003/46743941

この記事へのトラックバック一覧です: 森林医療の効用と森林観光地(六甲・有馬)の持続可能性:

« 寒冷紗・・・この漢字で良いのだろうか? | トップページ